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留学ドキュメンタリー

留学ドキュメンタリー 第8話 「穏やかな日々」周潔如さん(愛知県)

第8話で再び訪れたのは、愛知県岡崎市にある光ヶ丘女子高等学校に通う周潔如さん。ホストファミリーの家庭から寮へ移り、現在は寮生活を満喫している様子を取材した。前回の様子はこちら

2人部屋は、楽しい!


新しいホストファミリーと

再び訪れた5月の末、周さんは寮に移っていた。「2人部屋なのがとても楽しい!」と周さん。ルームメイトも部活が忙しく、なかなかゆっくり話せる時間は取れないらしいが、それでも同じ部屋で気軽に話せる友人がいる環境を楽しんでいるようだ。寮内では総勢50名近くの生徒が暮らし、入浴や学習、点呼の時間や掃除当番など、細かく決められていて慣れるまで大変だったそうだが、寮母さんは「極めて優等生です」と太鼓判を押す。

「インフルエンザなど病気にかかったこともなく、健康管理もばっちりできています。この寮では、班にわけて順番に掃除当番などを行っていますが、そういうところでも問題なく、非常にがんばっていると思いますよ」

と話してくれた。実は周さんは15歳から親元を離れ下宿していたので、こういった集団生活に馴染むのが早かったようだ。

「中国では家族が一緒になれる時間はもともと少なかったんです。1週間に1回しか家でご飯を食べる時間はないので、お母さんは「何を食べたい?」と聞いては好きなものを作ってくれました。下宿を始めて私もわがままなど言わなくなって、関係が変わりましたね」

一見するとのんびり屋の甘えん坊に見えがちな周さんなのだが、早い段階から自立へのステップを歩んでいたようだ。言葉の端々から両親への感謝の念が芽生え始めているのが伺える。

そして5月中には、新たなホストファミリーの家庭に移ることが決まっている。学校が募集したなかで、「ぜひ我が家に」と手を挙げてくれた家庭に移るそうだ。どこへ行っても周囲に愛されるキャラクターの持ち主なので、最後にまた一つ楽しい思い出を作り留学を終えることだろう。

先生に見守られながら

学校でも寮でも、クラスメートからも評価が高く、皆に好意を持って受け止められている周さんだが、最初はうまく溶け込めず涙を見せた時もあった。担任の岡田先生が、一つエピソードを話してくれた。


2年から引き続き担任をされている岡田先生と

「まだ日本に来て2ヶ月足らずの頃、研修旅行で沖縄に行ったんです。行き先は長崎と2つに分かれていたので、周さんはたまたま仲の良いお友達と行き先が別れてしまって、それで初日の自由行動の日、一緒に行動する友人がいなくてポロポロ泣いてしまって、「寂しい」って・・・。その日は私が「じゃ、一緒に行動しよう」と言って、2人でお土産を選んだりしましたね。でもその夜、皆でレポートを書いてる時に、他の生徒が『わぁ、周さんこんな日本語を知ってるの?。すごいね』って話しかけて、一気に溶け込めたようでほっとしました」

岡田先生は冬休みに「交換日記をしよう」と周さんに提案したり、クラスの中で周さんが溶け込めるよう温かいサポートを続けられている。最近では台湾での留学を終えた生徒と周さんが北京語で会話する様を、クラスメートが取り囲んで楽しそうにやり取りをしていた様子が印象的だと話してくれた。また、クラスメートの中には周さんが来たことによって、中国語に興味をもつ生徒も少しずつ現れているそうだ。一時周さんは、このクラスで3年に進級せずに、もう一度2年をやり直すことも考えていたようだが、やはり今のクラスで進級することに決め、今ではクラスのなくてならない一員になっている。

戻ったら、皆をもっと大切に出来ると思う

意外だったのは、今回の取材中、最近の生活について周さんに尋ねたなかで一番多く登場した日本語が「のんびり」だったことだ。

「毎日ゆっくりのんびり出来ています。料理部の活動は、これからちょっと忙しくなると思いますけど。中学生が学校見学に来るので、部活の紹介のため光ヶ丘の伝統的なクッキーを作るんです。でも普段は学校が終わったらその後は何も予定がないから、何か食べたり本を読んだり、おいしいコーヒーを最近スーパーで見つけたのでそれを飲んだり。あとはテレビを見たり」


日本に来たら必ず見たいと思っていた桜

「のんびりしている」という答えには正直驚かされた。1年間という限られた時間の中で、「もっと日本語を習得したい」、とか「日本にしか出来ない体験をしたい」、と打ち込むのが留学生だと思っていたからだ。しかし周さんの続けた言葉に、私は周さんは周さんにしか出来ない貴重な体験をしているのだな、と納得できるものがあった。

「中国ではのんびりする時間はないんです。多いとか少ないとかじゃなくて『0(ゼロ)』。夏休みや春休みなど、長い休み以外は何かを落ち着いてやることは気持ちの上で難しい。いつも何か、勉強があるという感じ。何か忘れてないかな、といつも考えていました。先生が厳しくて、教室に立たされる時があったり、ほんとに恐かった」

いつも何かに追い立てられているようなプレッシャー。今の穏やかな周さんからは全く想像できないのだが、そのせいか中国にいる時はとても怒りっぽかったと話す。そんな自分が嫌で、日本に来て自分を変えたいと思っていたそうだ。

「日本に来てこの一年間、怒ったことがないです。中国ではちょっと怒りっぽかった。友達の話を気にして、怒るというか色々考えすぎたり。でも今はそういうことがあんまりない。気にならないというか、相手の言葉を自分の気持ちで勝手に悪い方に考えるのではなくて、いい方に考えられるようになり、落ち込んだりすることが少なくなりました」

忙しすぎる生活のなかでは、誰しも心の余裕を失ってしまいがちだ。日本の穏やかな生活のリズムの中で、自分のことで精一杯だった時期を振り返り、周囲への感謝の気持ちや他者への思いやりの心が芽生えてきた。

「日本に来て良かったのは、中学の友達のこと、家族のことを振り返ったこと。懐かしくて、友達のことは、どうやって友達になったっけ、とかケンカしたことも思い出したりして。帰ったらもっと友達も家族も大切にすることが出来ると思う。離れたから余計に皆の良いところが見えてきて、けんかしたことも怒ったことも、全部良いこと、楽しい思い出になりました」


「自分の名前を中国語で教わったりして、中国語に興味が出てきたよね」

「相手の欠点も全て含めて愛せるようになると思う」と、私には彼女の言葉がそう聞こえ、私のほうこそ自分を振り返りたくなった。年齢を重ねた大人であっても、こんな風に考えることはなかなか出来ない。日本での生活を経て、より芯の強い、優しさのある人間へと成長している様子が感じ取れた。

「将来また日本で進学したいと考えています。日本は文化が近いし暮らしやすい。それに今のクラスメートと、今度日本に来たときはいっしょにディズニーランドへ行こうねって約束しているので」
「帰るのは楽しみは楽しみなんですけど、中国での同級生とは同じ学年ではなくなってしまうし、一人で新しいクラスは寂しいかなとも思う。それに帰ったらすぐテストがあるかもしれません。『のんびり』は終わっちゃいますね(笑)。でもほんとに食べたいものがいっぱいあって。火鍋とか、お母さんの手料理も食べたいし、学校の食堂もなつかしい。それに肉まんも!」

自然と周囲の人を和ませてしまう周さん。中国に戻ると、また勉強に勤しむ日々が待っているだろう。両親の愛情や友達との友情、それからこの日本で過ごした日々が、彼女の心の支えとなってまた大きく成長してくれることを願っている。

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