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卒業生インタビュー

インタビュー 心連心プログラム修了生の「日中交流の担い手」として成長した様子を取材します。

Vol.035 付 博 さん

写真を拡大九大箱崎キャンパスの本部前で

名前
付 博  ふ      はく さん

プロフィール
  1990年生まれ、吉林省長春出身。長春第一外国語中学校から長春日章学園高校に進学。
  2年生の時、心連心プログラムの第二期生(2007年9月~2008年7月)として栃木県立宇都宮北高等学校に留学する。
  2010年4月、九州大学理学部に進み、現在は同大の大学院(システム生命科学府)2年生で、進化遺伝学研究室に通う。

  博多駅に近い九大の箱崎キャンパスには車で出向いた。付博さんは黄色のワンピースに黄色のカーディガンといういでたちでシステム生命科学府の建物の前で待っていてくれた。

  「研究室にいるときはジーパンに地味なかっこうなんですけど、きょうは取材されると聞いたので、ちょっとよそ行きにしました」

いまどきの若い女性


写真を拡大九大箱崎キャンパスで

  少し緊張しているという割には、落ち着いている。さすが理系女子と思ったが、話しているうちに、付さんが口にするのは背伸びをしない等身大の姿だった。中国人であることや理系女子、いわゆるリケジョであることの濃度はかぎりなく薄く、そこには国籍を飛び越えたアニメ好きのいまどきの若い女性がいた。

  研究対象は進化遺伝学。その中身の説明を聞いていると、最初はついていけても途中からお手上げになる。「頭が痛くなりますね」と正直に白状すると、「実はわたしもそうなんです。この分野は実際、難しいです」。

写真を拡大リケジョはピカチュウが大好き。
「この写真、お薦めです!」

  説明する方もされる方も頭が疲れてくれば、個人の話に戻る。ピカチュウが大好きという付さんは、典型的な「ながら族」で、テレビのドラマをみながら塗り絵をしたり、電話をしながら、また、いきものがかりの歌を口ずさみながら、ゲームに興じる。それが付さんのしあわせタイムという。

  「研究室では1つのことに集中しなきゃならないけど、ふだんの生活はテキトーです。バイトにも精を出すフツーの女の子ですよ」。

小中学生から数学が得意


  リケジョとピカチュウ。互いに相反する2つの要素が、付さんの中では同居している。本人はその矛盾に苦しむことなく、対極にある両者を往来しながら楽しんでいるかに見える。そうした資質はどのようにして培われてきたのだろう。

  中国では、小学生の時から成績はトップクラス。遊びより勉強が好きで、いつも先生からほめられていた。その分、クラスの仲間からねたまれ、友達は少なかった。

  中学校では父親に言われて日本語クラスに入った。父親は会社の仕事で日本行きの内示があったが、日本語ができなかったためにチャンスを逃してしまった。その無念さを晴らそうと、娘に期待するようになった。

  授業科目では明快な答えの出る数学が好きだった。答えがあいまいな国語や歴史などには興味が持てず、授業中の先生の声は右の耳から左の耳へと素通しで抜けていく。中国語で文章をつづることなども苦手で、中学生の時から「自分は理系かな」と思った。

心連心で宇都宮北高校に


写真を拡大宇都宮北高校の留学生仲間と。前列左からドイツ人、タイ人、付さん、スウェーデン人。英語教師の姉が経営する和服店で

  日中合作で設立された日章学園長春高校にはトップの成績で入学する。2年生のとき、心連心プログラムに応募し、国際交流に力を入れる栃木県立の宇都宮北高校に留学した。

  同校にはドイツやスウェーデン、タイからも留学生が来ていたが、外国人は1クラスに1人だけ。付さんはクラスのみんなから「ふうちゃん」と呼ばれ、男っぽい性格の女友達からは「ふう」と呼び捨てにされた。

  ホストファミリーのお父さんは同校の英語教師で、国際交流部の担当。門限に厳しく、言葉遣いにも厳格で、「~してください」と言うと、「~してくださいませんか」に言い直させられた。初めのうちは部屋でよく泣いたが、「細かく注意されることによって日本語力は飛躍的に伸びた」といまでは感謝している。

  お父さんにフィリピン人のお母さん、中学生の妹からなるホストファミリーと毎週末、どこかに出かけたのは楽しい思い出。妹は当時、いきものがかりの大ファンで、CDをいっぱい持っていた。何度も聴きながら歌詞を書いて覚えたが、これも日本語の習得に役立ったという。

  1年近くの留学を終えて長春に戻り高校を卒業すると、宮崎県えびの市にある日章学園の九州国際高校で1年間、大学受験の準備をする。数学と物理、そして英語が得意だったので、自然と理系のコースになる。留学生枠で九州大学の理学部生物学科に合格した。

  「試験の方は自信があったけど、面接の時は何を聞かれてもうまく答えられなかった。てっきり落ちたと覚悟していたら、受かっていた。運がよかったんですね」

九大理学部から大学院へ


写真を拡大九大理学部に入り、福岡タワー近くの海で

  学部生の4年間は、遺伝学、細胞生物学、生化学、発生学などに取り組む。授業そのものは面白かったが、難解すぎて手に負えない分野もあり、正直なところ、頭が痛かった。毎年2~3科目の単位を落とし、追試でなんとか及第した。

  学部生から大学院生になったのは、親の希望でもあったから。中国では大学院生はいまだ少ないので、就職に有利と思われたが、付さんによると、生物学科の学生の8割は大学院に進むという。「だから、わたしだけ特別なわけではありません」。

  別名システム生命科学府と呼ばれる大学院では、進化遺伝学の研究室に入る。わたしたちがふだん目にする多様な生物は進化の産物でもあるが、生物がどのように進化してきたかを解明することは、生物学の永遠のテーマでもある。

写真を拡大九大貝塚寮のルームメイトと、湯布院で

  この研究室では樹木の進化過程を調べ、途中で変異があったかどうかを研究している。樹木は主にスギとヌマスギ(落羽松=ラクウショウ)。

  各地からサンプルを集め、シークエンスと呼ばれる機械にかけて遺伝子の変異をチェックする。

  そして地理的な分布と遺伝的多様性のパターンとの関連を明らかにすることで、遺伝学的な立場から森林の保全や地球環境の改善を目指している。

ちょっとした野心家


  付さんがたどってきた道を振り返ると、現在の研究対象を含めて、カタブツの女性のように映るが、実像はかなりちがう。言葉の端々に「わたし、いいかげんな人間なんです」という自己観察が何度も出てくる。

  だから言葉も着飾らない。留学生の口から出がちな大言壮語はなく、使命感めいた発言もない。総じて冷めている。

  「中国は、いまでは大きくて強い国。そんな中国の発展にわたしが貢献したいなどと言うと、なんだかウソっぽくなります。わたしの貢献がなくても中国は十分にやっていけますよ」

  来年2月末提出の修士論文のテーマは「第二世代シークエンサー解析方法の構築」。付さんに3回説明してもらい、「DNA配列を出す方法が解析できれば、変異による生物の多様性がわかる」となんとか理解するが、それから先のことは不問にした。聞いてもわかりっこないと諦めたので。

  大学に残って博士になる人生選択は最初から皆無だった。就職活動は順調に進み、7月には東京お台場のIT企業から内定をもらった。面接のとき、「わたし、お台場が大好きなんです。お台場で働けるなんて夢みたいです」とアニメ好きの本領を披露すると、採用担当者は笑いながら合格点をくれたという。付さんはこの就活突破を自分の実力とは思わず、「運がよかったから」と振り返る。

  当面の夢は2つ。ひとつは海が見える3階建ての家で家族みんなで暮らすこと。長春の両親は貧乏ヒマなしで、パスポートを持たず、娘に会いに日本を訪ねたことは一度もない。だから将来は、夫となる人の両親ともども同じ屋根の下で一緒に暮らしたいという。もう1つの夢は、中国法人を持たない内定先の企業にずっと勤めるのであれば、自分で中国法人をつくって社長になることだ。

  ピカチュウ好きのリケジョは、自分の寸法に合わない大志は持ち合わせないが、ちょっとした野心家でもある。

写真を拡大宮地嶽神社。おみくじで「大吉」を引く

  【取材を終えて】
  話をしていると、付さんはいつしか「ふうちゃん」になる。玄界灘が一望できる宗像のレストランで一緒に昼食をとったあと、商売繁盛の御利益で知られる宮地嶽神社に参拝した。ふうちゃんはおみくじを買いたかったが、あいにく小銭がない。こちらがポケットから出そうとすると、ふうちゃん「いえ、これは自分のおカネで買わないと」。社務所で千円札をくずし、そこから100円出しておみくじを引く。開けると、運勢はなんと「大吉」だった。
願いは「かなう」ときっぱり。こちらは10回以上、この神社でおみくじを引いているが、ついぞ「大吉」に巡り合ったためしはない。ふうちゃんは確かに、強運の人のようだ。その運は、いいかげんなようでいて本当はがんばり屋さんであり続けたふうちゃんに、神様がくれたごほうびなのかもしれない。そう思うと、妙に納得した。
(取材・文:大住昭(NNA) 取材日:2015年9月29日)

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